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日々の暮らしを愉しむ

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【cafemignon】

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いま思うと、ムトウさんはやがて訪れる
自分の”死”に対してどう向き合ってたのだろうか?

歳は40以上も離れていたが
それでも私たちはいつのまにか歳のちかい友達のようになっていた。

でも、やっぱり”じじぃ”だからメールはできない(笑)
1日に何回も会っているのに
仕事が終わってから夜、ふと電話をかけあったりもしていた。

あるときムトウさんから
「アタシはね、がんなんだってさ。」と聞かされた。

「がん?」
「そう、肝細胞ガンってやつ。
 昔はさ、予防注射なんて針も変えずに廻し打ちだったんだよ。
 それで肝炎になって、で、ガンにまでなっちゃった。」
「で、治るの?」
「いやぁ、お亡くなりになるんじゃない?
 ウフ^^(この「ウフ^^」と笑うのがクセだった)
 けどさ、まぁじじぃだからがん細胞だってじじぃなわけだから
 進行も遅いらしいよ。」
「・・・」

当時の私にはムトウさんが”お亡くなりになる”
というのが理解したくないコトのひとつだった。

「アタシはね、人よりいろんな経験してきたじゃない?
 だから60まで生きることができたら
 あとは余録だと思ってるんだよ。
 70をゆうに超しちゃってるんだから 
 すっごい余録さ^^」

「ねぇ、みよちゃん。
 人生ってのはね、何が起こるかわかんない。
 それだからその自分の人生に対して一喜一憂するわけだが
 それでもアタシは今をしっかり見つめて
 それがいくつであっても一生懸命考えたり
 行動したりするもんだと思ってるんだよ。
 例えばさ、アタシたちは商売をしている。
 今日売れなかったら”なんで売れなかったんだろう?”って
 理由を一生懸命考えて次の日はそうならないように
 作戦を考える・・・
 悩みや楽しいことなんかはだれかと分かち合う。
 そうやって日々やってくんだよ。
 そしたら自分がいつお亡くなりになっても後悔もないしね^^」

でも、そんな会話を耳にするたびにフクザツな気持ちになった。

「ムトウさん、家族は?」
「随分前に離婚したよ。で、娘とは一旦離れたけど
 どうしょうもなくワルくなっちゃって、アタシが探して
 娘が20になるまで一緒に住んだ。
 それからは一切連絡もしてないし、会ってもない。」

「連絡先は?」
「そんなの聞いてないさ、オトナだもん、ウフ^^」
「いや、オトナだって聞いとくよ、普通。」
「アタシにも意地ってモノがあるんだよ。
 一度”会わない!”って決めたら会わない。
 アタシがそう決めたんだから会わないんだよ。」
「ふぅ・・・ん。」

そういう生き方もあるんだ・・・
潔いいけど、私にはできるかなぁ。

ふと、そう思った。
by mignon0701 | 2010-04-27 02:03

【cafemignon】

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ムトウさんのおみせはcafemignonの近くにあった。
”骨董と民芸のみせ”

「民芸???」
「うん^^骨董だけだと入りにくいヒトもいるんだよ。
 だから小さくて安くて買い易いものも置いておく。
 骨董はすぐに買う人は少ない。
 一期一会だけど、ゆっくり話して
 そのものを愛でてから買う人が主だからね。
 まぁ、じじぃはじじぃなりにご商売を考えてるってぇわけさ。」

ムトウさんが骨董屋さんを始めたのは
ごく自然の成り行きなのかもしれない。

彼はある財閥の御曹司で
おうちの蔵にはたくさんの骨董があって
自然とものの価値が身についたらしい。

美術品や宝石を扱う商売をしているところの
子供たちはそうやって育つと聞くから
骨董も同じことなのだろう。

贋作と本物を見分けるのは
数え切れないほど見て、触って
そして「なんとなく、違う・・・」と感じるものだから。

ムトウさんは15歳の時から一人暮らしをしてきたそうだ。
あ、でも常に”じいや”が付いての、だが(笑)

「どんなお部屋に住んだって
 自分でミヤコに変えればいいんだから。」

「商売って常に”なんで今日は売れなかったんだろう?”
 ”今日はどんな点がよかったんだろう?”とかって
 考えて、お客さまが気持ちよくその時間を過ごして
 もらわないとならないからねぇ・・・」

などとよく言っていた。

波瀾万丈の人生だったらしいが
でも、自分なりの人生を満喫してるようだった。

そんなムトウさんの体は
実は肝細胞ガンの末期に襲われていたのだった。
by mignon0701 | 2010-04-23 16:33

【cafemignon】

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ムトウさんはそれから毎日、いろんな時間帯に顔を出した。

そしてわがままを言いたい放題!
でも、それがなんだか憎めなくて
みんな常連さんたちも
「ヤなじじぃ!」って感じても
「ま、いっかぁ^^」となってしまう
フシギな”じじぃ”だった。

朝のトーストには”ローマイヤ”のレバーペーストを持参。
「へんな香りがしないからレバーが嫌いな人でも
 食べれるんだよ^^」と
みんなに味見させてみたり、
”じじぃ”にはおよそ似合わない
可愛らしいベビーピンクの携帯を持っていて
ところかまわず「はいはーい^^」
と言って、出る。

でもみんな「しょうがないよ、ムトウさんじじぃだもん^^」
となってしまう。

cafemignonの裏のアパートは各部屋が
昔の下宿屋さんみたいで、小さかった。

そこにお年寄りがひとりで住んでるのって
なんだか寂しい印象だが
ムトウさんは”贅沢貧乏のマリア”のように
住んでいたから、そんな寂しい印象は全くなくって
むしろ一人暮らしを心から満喫してるような
部屋だった。

ちいさなお気に入りの絵画を自分が寝ても
見れる位置に飾り、
棚の上には友達などと撮った写真立てが飾られ、
商品として出したくない
お気に入りの骨董を上手にディスプレイして・・・
by mignon0701 | 2010-04-22 02:05

【cafemignon】

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ムトウさんは、10月のある日、
突然やってきた。

ツルンとした頭に仙人のようなおヒゲ。
べっ甲のメガネの奥の瞳は澄んでいて
白いワイシャツにグレーのパンツ。
ループタイといったいでたちのおじいさん。

「いやぁ!今日から裏のアパートに越して来ました
 ムトウです^^
 これから毎日来るからねぇ^^」と言って
「エースプレッソォを下さいな。」
とまるで100年も前からここにいるように
おみせとも、みんなとも自然と馴染んで

そのなんとも言えないオーラにみんなが驚いた・・・

話を聞いてみれば
すぐ近くの病院に通うことになったから
それなら住まいも近所にして
前々から趣味だった骨董を
商売にしようと
これまた病院の近くに店も構えた。

その当時、彼の齢は74。

「仕事をするんならね、住まいは近い方がいいんだよ。
 あ、あなたお名前はなんておっしゃるんだい?」
「みよです。」
「みよちゃんか^^」

スッと立ちあがったムトウさんは
「ほいじゃ、みよちゃん、また明日^^」
と去って行った。

この人がこれから私にとって
忘れられない友達になるなんて
このとき全く想像すらしていなかった。
by mignon0701 | 2010-04-21 01:01

【cafemignon】

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この物件の大家さんがご病気でおみせができなくなるまで
ここは大家さんの営む喫茶店だったから
ご近所のお年寄りが自然にcafemignonにも集まってきた。

「へー、ずいぶんとまぁハイカラな店だねぇ!」
「おやっ!おザブ(お座布団:ソファー席にあったクッションのこと)も
 あるよ。」
などとみんなでコーヒーを飲みつつ、
ランチが始まるまで”お茶のみ”が始まる。

昨日のことのように鮮明に戦争のことを覚えていて
語り続けるおじいちゃん、
人工透析受けてるから、と水分調節をしながらでも
来てくれるおじいちゃん、
「あぁ、あんたまたここに居たのかい。」と
お昼御飯ができたのを知らせにくるおばあちゃん。

自家製のベイクドチーズケーキの味に驚き
「へー!こんなお菓子があるのかい!!!」
とおばあちゃん友達に紹介してくれるおばあちゃん・・・

内装は自分でも
なんだか南仏のカフェのよう♪
なんて感じたりもしていたが

これだけ地元の”アッパー75”が集うと
なんだかそんなおシャレな感じは薄くなり、
なごめる、ほんわかした空間に早変わりしてしまうのだ。

おみせは提供する側が作るのではなく、
お客さまが作り上げていくものなのだ。
by mignon0701 | 2010-04-18 08:59

【cafemignon】

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おみせやさんをやっていると
本当にいろんな人と出会えるし、話が聞ける。

タチカワさんは同じ年のとっても美しい人で
隣の私学の幼稚園にお子さんを送った帰りに
しょっちゅう来て下さってた。

エステでお手入れしたお肌にキレイなネイル。
「家着できちゃった^^」といっても
見ただけでわかる上質素材の服に
お子さんのモノをいろいろ詰め込んだバーキン。

ここでコーヒーを飲んだら
別のママ友達を待って
お子さんをお迎えに行くまでに
エステ、美容院、お買いもの、習い事など
セレブな忙しいスケジュールでいっぱいだった。

でも、なんとなく寂しそうなのが
いまでも強く心に残っている。

あるとき
「ね、みよさん!生年月日教えて!」
と突然言われ、教えると
「じゃ!水星人+ね!」と有名な占い師の提唱している
私の生まれ星をすぐさま言ったのには、驚いた!

「なんですぐわかるの???」
「だって、ご本見てだけだけどさ、私すっごくお勉強したのよ^^」
「いい年におみせ始めたのね。」
「それは考えなかったけど(笑)急にどうしたの?」

「うちね、お金は他のおうちよりもあるのかもしれないけど
 実は主人が浮気してて・・・
 まぁ・・・いつものことなんだけどね^^
 で、自分の運勢を見て”今は我慢しよう!”とか
 ”今はこう行動しよう!”ってカンジで
 この占いに随分と助けられてるのよ。」
と寂しく笑った。

「みよさんはいいなぁ。ひとりで好きなコトできて。」
と彼女は煙草をくゆらせながら言った。

「そんなことないよ、隣の芝生は青く見えるんだよ。
 私はまぁ、浮気とかは置いといて
 あんなにかわいいお子さんがいて
 ハタから見ればセレブな生活っていいなぁって思ってるよ。」

「そっか^^
 人は手に入れられないモノを欲しがるもんね^^」
「そうだよ、手に入らないから
 手に入れられるように、こうして毎日もがきながら
 みんなそれぞれ暮らしてるんだよ。」
「そうね、これが現実なんだもんね。」

みんなこうやって
誰に言わずとも、それぞれに問題を抱えて
日々暮らしている。

何かにすがりたいほど
ツラいときもあるけど
何かに突然、救われるときも、ある。

そうやって自分の足で
私たちはまいにち自分の道を歩いているんだよね・・・
by mignon0701 | 2010-04-16 08:55

【cafemignon】

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ひとりでおみせやさんをやっていると
カラダのさまざまな自然現象に困ることも多かった。

ご近所でやはり女性ひとりで最初はおみせをやっていた
70代の元花街のおかあさんは
「アタシはがんばりすぎて体壊しちゃったのよ。
 ここにいい見本がいるんだから
 ムリはしなさんな。」
とよく気遣って下さった。

でも、やっぱり・・・ムリしてしまう。

風邪をひいたりすると味覚がニブる。
気分が安定していなければ
おみせの運営全てに影響してしまう。

そんなとき頼りになるのは
某製薬会社のMRのマツイさんやイワサキさんたちだった。

彼らは病院の先生方に薬を売るのが仕事。
当然、いろんな処症状や薬に詳しい。

おみせの隣に駐車場を借りてたので
ノートPCを片手にいつも来ていた。

でも、このチーム。
関西系の集まりだったから全てが”おもろかった^^”

自分たちの失敗も、
私のちょっとしたヘマも、ヘコんでる気分も
とにかく何でもかんでも
”ボケとツッコミ”に変えてしまう。

「ボクらの仕事は先生方を待って、そんで
 アタマ下げてなんぼなんや。
 タイヘンかて自分らの選んだ仕事やさかい。
 みよさんかて、せやろ?
 どんな時かて続けてまうやろ?」

そして「けどなぁ、人生笑ってなんぼなんやからなぁ!」
とちょっとの風邪は彼らの笑いが吹き飛ばしてくれた。

でも、やっぱり体調がおかしかったとき、
別の常連さんで産婦人科の女性の先生に話したら
「みよちゃん、自分の通ってる婦人科ってある?」
と真顔で聞かれた。

「ないです。それになんか行きにくいし・・・」
「そうだよね、私が診るのは気が引けるだろうから
 近くで女性の先生で通い易い雰囲気のところ
 探した方がいいよ。
 今のみよちゃん、ひとりで仕事してるでしょ?
 ホルモンバランス、崩れてるはずだから。」

と言われ、今も頼りにしている婦人科をその当時見つけた。

彼女の言うとおり
ムリをしてないつもりが、ムリをしていて
すっかりホルモンバランスを崩してしまったのだ。

「これはゆっくりつきあっていって
 お仕事続けていきましょう。」
と処方された薬を手にしたとき初めて
自分の体をまず大切にしないと
好きな仕事だって続けていられなくなっちゃうんだ・・・
としみじみ感じた。
by mignon0701 | 2010-04-15 16:23

【cafemignon】

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cafemignonは毎朝7時半から始めていたが
当然、時間帯によって
常連のお客さまは異なる。

開店時はこれから出勤、通学のかた。
開店前によく、当時学生だった
ヤマダくんやナカジョウくん、ハルカちゃんなどが
開店作業を手伝ってくれながら
みんなでおしゃべりしながらOPENした日もあったし、

9時以降は隣の私学の幼稚園の
お母さんたちの時間つぶしの場になったり、
ご近所のおじいちゃん、おばあちゃんの
”憩いの場?”にもなった。

ソファー席がぜーんぶ
”アッパー75”になり
みんな揃いもそろってコーヒーカップを片手に
おしゃべりしていた光景を
目の当たりにした学生のナカジョウくんは
「ひっくりかえりそうになった!」と言っていた。

そしてお昼は近所の大学病院の先生や
大学の先生方、や講師、研究員のかたなど。

フシギとOLさんはこのへんにあまりいなかったようだ・・・

でもひとりでいらしても
私がお客さまそれぞれを紹介してしまうので
「おー!〇〇さん、今おひるですか?」
なんて会話がお客さま同士で通用してしまう。

ときには電話があって
「これからおひる食べたいんだけど・・・」
「あ、今、〇〇さん来てるよー^^」
「じゃ、スグ行くから待てるようなら待っててって
 伝えて!」
なんて全くちがった職場、職業の人たちが
なんだか仲良くなってしまう・・・

そんなおみせだった。

いや、おみせというよりもむしろ
みんなは”おうち”の感覚だったのかもしれない。
by mignon0701 | 2010-04-13 08:58

【cafemignon】

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韓国人のキムさんはご近所さんで
毎朝、来てくれてた。

いろんな話題に富んでるひとで
周りの雰囲気も穏やかになる・・・
そんなオーラを醸し出していた。

だんだん、cafemignonの平日の朝の風景が
かたまってきているようだった。

”愚痴キング”のコバヤカワさん、
「がんばれー^^」といつも小声で言ってくれるフサコさん、
朝からまったりのヤマダくん、
そしてキムさん・・・

そしてまだまだ朝の風景は増えていくのだ。

キムさんは今、あのころから何年かして
実家のお父さんが具合が悪くなったと聞き
某国立大学の準教授という立場を
さっくりと捨て、韓国に戻り
「論文ひとつ書けば1年暮らせるから^^」と
看病に専念。

メールでよくやりとりしていて
帰ってしまってからもずっと友達だが
今では論文も発表しながら
地元の大手ゼネコンの幹部クラスにもなりながら
それでもマイペースで暮らしている。

あのころ、学会でヤマダくんが発表した席に
先生側にキムさんがいるのを発見し
自分の分野でかなりスゴい人だと知って
驚いた!とおみせで話をし始めたら
「でもここはcafeでしょ?
 ならば、みーんなおんなじお客さんじゃない^^」
とにっこり答えたキムさんに
「そぉだよね^^」
とみんな素直に納得。

そう、ここはおみせやさんであって
ココに来れば、外での仕事や立場は
全くの論外になる。

そんな上着はここでは必要ないからね^^

のんびーり、まったりとした朝7時半からの風景。

それが9時近くなると
また別の朝の顔ぶれに変化していくのだ。
by mignon0701 | 2010-04-09 01:13

【cafemignon】

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cafemignonの朝の常連さんだったヤマダくんは
その頃まだ学生だった。

今は某国立大学の準講になり、
学会でいろんな国を飛び回る学者へと成長した。

当時、彼は月3万円のお風呂のないアパートに住み、
自転車でいろんなところに行き、
カフェめぐりが大好き。

小さい頃からイギリスで育ったらしく
その頃のおうちの近所には
まったりできる田舎ならではのカフェがあって
そこで過ごす時間が大好きだったらしい。

朝は中国粥にハマっていた。

私はそんな彼の暮らしぶりが
ちょっぴり羨ましかった。

自分の時間を
しかもゆっくり過ごすすべを知っていて
それを心から楽しむ。

服や住まいにはお金はかけないが
美味しいモノをゆっくりと食べながら
のーんびりと過ごす。

それをこんな早い年から
心から楽しんでいる彼のライフスタイルが
羨ましかったのだ。
by mignon0701 | 2010-04-06 08:53